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2013年5月

2013年5月27日 (月)

コンパクトSTUDIOに求められる防音工事の性能

今回紹介されているような壁式鉄筋コンクリート造のマンションや近年建設されている鉄筋コンクリート造のマンションは、一般に築年数の古いマンションに比べ、住戸間の界壁界床の遮音性能が高い。これは住戸におけるサッシの気密性能が高くなり住戸内の暗騒音が低くなることによって、より住戸間の騒音が意識された結果、界壁界床の遮音性能を高くすることを要求されたことによるものだ。
 
そうした隣戸に対して高い遮音性能を有する近年のマンションにおいては、決して大音量でないYAMAHA NA-10Mやそのほかのニア・フィールド・スピーカーによるモニタリング環境として、どの程度の防音工事が必要になるか判断に悩んでいる人も少なくない。このことに関して数値的に検証してみる。
 
NS-10Mクラスのモニター音量としては80dBから90dBくらいが一般的といえるだろう。これに対して住宅街にある近年の気密性の高いマンションでは、夜間などの静かな時間帯での暗騒音が25dBくらいになるケースもある。このことから考えると少なくとも65dB以上の遮音量が必要になり、D値で言えばD’-65以上の性能が必要ということになる。
 
一方、壁厚あるいはスラブ厚200mm以上の最近の鉄筋コンクリート造のマンションの住戸間の遮音性能はD’-50~55程度であり、ピーク時で90dBくらいのモニター音量になると、25dBの暗騒音を10dB以上も上回ってしまうことが分かる。これは、近隣住戸においてモニター音が騒音だと認識されるレベルである。
 

Photo

そこで、D’-65以上という性能を得るには、完全なフローティング構造(浮構造)を採らない限り難しい。
某スタジオを例に挙げると、D’-79という高い遮音性能が得られており、実際には100dB近い音量も出すことが可能であると考えられる。
左図:青い部分が一般的な鉄筋コンクリート造のマンション、オレンジがフローティング構造(浮き構造)の施工を施した場合の遮音性能。某スタジオの遮音性能は赤い棒グラフで示された部分で、直上階に対しD'-79を確保している
 
なお、最近のパワードスピーカーに関しては低音域の音量が高いので遮音性能に関しては余裕を持った設計とすべきだろう。

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2013年5月24日 (金)

防音工事後のモニタースピーカー伝送特性について

1_2 左図は、某スタジオのエンジニア席におけるモニター・スーカーの伝送特性である。壁マウント形式で固定されたGENELEC 1032Aの位置決めはエンジニア氏も立ち会いの下、かなり綿密に行った。低音特性は素直に伸びていて、スケールの大きなモニター音になったのは狙い通りである。一見、バッフル・マウントのように見えるが、スピーカーを固定している骨組以外はすべて吸音面だ。また、吸音配置パターンとしては、原則として下記を推奨している。
①スピーカー正面壁面は吸音面にする。
②必要に応じて一部吸音面にする場合があるが、後壁、両側面壁は反射性にする。
その結果、本例の平均吸音率は0.25弱である(下図)。
2 従来の常識からするとライブと思われそうだが、そのような感じでは全くなく音像の大きさ、定位、奥行感、解像度などは何ら問題ないレベルと評価していただいている。むしろ張りのある自然で明快な鳴り方は、ストレス感のない楽なモニターができるとのことだ。このことを伝送特性との関連で表現するならば、最大ポイントは定在波の分散均一化の音場、すなわち、①200Hz以下におけるピーク音圧がないということ(周辺レベルから5~6dB以上突出しない)、②大きな幅をもったディップがない、といった伝送特性の現実にある。    
中高音はスピーカーの性能および設置条件によって決まり、低音はその条件に加えて、さらに部屋の共振特性が重畳された音を聴く…というのが実態である。中高音は工夫による音質調整が可能な世界だが、低音の制御の困難さはよく知られるところだ。"スタジオの数だけ異なるモニター音がる"と言われる大きな原因の一つと思われる。本スタジオの伝送周波数特性は、やや右肩上がりであるが、全体的に平準で低音域の大きな凸凹がない。このような特性が、中高音はもとより低音まで音の動きを把握でき、その上、スケール感も再現できていることにつながていると言える。
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